今回は求人情報の見方について説明します。

まずは、以下のサンプルをご覧ください。皆さんはどこに注目しますか?

(1)事務所名○○法律事務所
(2)所在地東京都○○区××
(3)事務所概要弁護士1名、事務職員2名
一般民事を中心に、家事事件、会社法務等幅広く手がけています
(4)募集職種法律事務職員
(5)採用予定人数正社員1名
(6)主な業務内容秘書業務その他弁護士補助業務全般(電話・来客対応、文書作成補助、記録・文書等の作成・管理、裁判所等への書類提出・連絡、その他法律事務所における事務全般、事務所の清掃など)
(7)応募資格PC(ワード・エクセル・一太郎)の基本操作ができる方
※経験者優遇
(8)勤務条件月曜日~金曜日
午前9時30分~午後5時30分(昼休み1時間)
休日:土日祝日、年末年始休暇・夏季休暇あり
給与:月額18万円
待遇:賞与あり、昇給年1回、交通費支給、社会保険加入
(9)応募方法履歴書(自筆・写真貼付・連絡先明記)及び職務経歴書をご郵送ください。
ただし、応募書類は返却しませんので、ご了承ください。書類選考のうえ、面接させていただく方のみご連絡いたします。

いかがでしょうか。それでは早速みていきましょう。

(1)事務所名

「名は体を表す」といいますが、法律事務所名にもその傾向があります。

例えば、「山田太郎法律事務所(以下の法律事務所・弁護士はすべて架空のものです。仮に同名の事務所・弁護士が実在したとしても一切関係ありません)」であれば、弁護士が複数いたとしても、山田太郎弁護士が絶対的なトップである可能性が高いですし、「山田・佐藤法律事務所」であれば、山田弁護士と佐藤弁護士がツートップで、かつ、山田弁護士がやや格上という可能性が高くなります。

他方、事務所名に弁護士の名前が入らない事務所は、メンバーの個性を表に出すよりも、事務所の名前に込められた意味を大事にしている事務所といえます。そういった事務所では、ホームページなどで名前の由来を確認しておくと、その事務所のカラーが見えてくるかもしれません。

(2)所在地

所在地から確認すべき事項の一つ目は、自宅からの通勤手段です。場合によっては、自動車通勤の可否などについて確認する必要が出てくるかもしれません。

確認すべき事項の二つ目は、事務所と最寄りの裁判所との間の移動手段です。弁護士も事務職員も行く機会が一番多いのは事務所があるエリアを管轄する裁判所です。そのため、これまで法律事務所は裁判所の近くにまとまって立地していましたが、法律事務所の多様化が進んだ結果、裁判所から離れた地方都市に事務所を構えるケースも増えてきました。裁判所までどのような方法で行くのかは、法律事務所に就職してからの仕事の進め方に大きな影響を及ぼしますので、予め確認しておいたほうがよいでしょう。

上記以外にも、そのエリアごとに事務所の特徴(規模・取扱案件など)が異なることもあります。そういったエリアの特徴についても、いずれこの連載の中でも取り上げてみたいと思います。

(3)事務所概要

事務所の人数構成、取扱案件などについて記載されているパートです。

人数構成については、まず、弁護士と事務職員の割合を確認します。多くの法律事務所では、1人の弁護士に対して1~2人の事務職員を配置しています。弁護士の数が事務職員よりも大幅に多い場合は、(a)事務職員に欠員が出ている、(b)弁護士が事務職員の仕事の一部(書面の提出等)もカバーしており、事務職員の仕事に余裕がある、(c)老齢などの理由で弁護士の仕事が少なく、少ない事務職員でも対応できる、といったことが予想できるので、所属弁護士情報を弁護士会のホームページで確認するなどしてみるとよいでしょう。
逆に、事務職員の数が弁護士の数よりも大幅に多い場合は、弁護士と事務職員、あるいは事務職員間の分業が進み、特定の法律分野(債務整理、交通事故、債権回収等)について大量に受任し、組織的に仕事を進めているケースが多いです。このような事務所では、事務職員にも案件の一部を担当させるため、やりがいをもって仕事に臨める半面、仕事量が多めになったり、同じ分野の案件が集中するために、仕事の幅が広がりにくい、といったデメリットもあります。

取扱案件については、一般民事家事事件債務整理会社法務刑事事件といった分野を満遍なく取り扱っている事務所が多いですが、上にも述べたように、特定の分野に特化した事務所も増えてきています。

(4)募集職種

募集職種の欄には、法律事務職員の他に、パラリーガル弁護士秘書弁護士補助といった記載がなされることがありますが、基本的にはほぼ同じ意味で使われています。しいて言うならば、パラリーガルのほうが法律的なサポート業務(書面の作成など)の色彩が強く、弁護士秘書のほうが秘書的なサポート業務(スケジュール管理など)の色彩が強いといえます。

(5)採用予定人数

まず重要なのは雇用形態です。最近は法律事務所でも、契約社員・パート・バイトといった非正規雇用が増えてきています。非正規雇用にも時間の有効活用といったメリットがありますが、長く働ける職場かどうかは確認が必要でしょう。

法律事務所の求人は欠員補充が多く、1回の採用で1名の募集であることが多いですが、採用の前後で人数構成がどのように変化するのかは、就職後の仕事の仕方に影響が出てきますので、あわせて確認しておきましょう。

(6)主な業務内容

「秘書業務」「弁護士補助業務」「法律事務」など概括的な記載がなされることが多いです。法律事務職員の業務内容については、改めて説明したいと思いますが、非常に大雑把な説明をすると、「法律事務所内で行われる業務のうち、弁護士が行うものを除いた全部」ということになります。
つまり、弁護士が書類の作成や提出まで行うような事務所では、事務職員は電話応対や来客対応などが中心になりますし、弁護士が事務職員に積極的に仕事を振る事務所では、弁護士の指導のもと、裁判所に提出する書類の作成なども行います。

どちらにしても、大多数を占める小規模事務所では、「これは自分の仕事ではないから関係ない」と避けるわけにはいきませんので、どんな業務にも対応できる柔軟な姿勢が求められます。

(7)応募資格

法律事務所の業務の大半はパソコンを使った書類の作成です。WordとExcelを使用した文書作成スキルは必須といえます。一部の法律事務所では、一太郎の文書形式で各種文書のひな型を作っているために、現在でも一太郎を使っています。わざわざ勉強する必要まではありませんが、利用経験があればアピールポイントになるでしょう。
中級~上級レベルの高度な機能を使用することはあまりありませんが、入力する分量が多いため、入力スピードが求められます。また、依頼者の権利にかかわる、間違いが許されない文書を作成するため、正確な入力と事後チェック(校正)の能力も問われます。

法律事務所業界の一般的な傾向として、経験者が優遇される傾向があります。入所間もない新人が担当するような業務(裁判資料の取り寄せや裁判所へのお使い等)であっても、業界に入ってからでしか身に付けられないものが多く、教育・指導にかかるコストを考えると、短期間でも経験のある人が好まれる、というわけです(事務職員が少ない法律事務所では教える側の負担も大きいため、特にその傾向が強くなります)。
派遣やアルバイトでも経験が積めればベストですが、在職中で難しいという方は、当社のパラリーガル養成講座であらかじめ必要な知識を身に付けるのも一つの手です。

(8)勤務条件

勤務日については、裁判所の開庁日・開庁時間に合わせて平日の9時~17時を中心に設定する事務所が多いですが、依頼者のニーズに対応する形で土日や夜間にも対応する事務所が増えており、そのような事務所ではシフト制をとっているところもあります。
冬季の休暇は一般企業と同様、一斉に休みを取る事務所が多いですが、夏季の休暇については、裁判所が閉まらないため(7月下旬~8月下旬に交代で休暇を取る)、それに合わせて交代で休みを取る事務所と一斉に休みを取る事務所に分かれています。

給与については、東京で月額20万円前後大阪で月額18万円前後というのがひとつの目安となります。極端に安いところを避けるのは当然として(念のため、最低賃金表で確認しておきましょう)、一見高そうに見えるところでも、残業代が込みであったり、歩合給的な賃金体系を採用している事務所もありますので、注意が必要です。

この項目で注意が必要なのは、社会保険の有無と種類です。個人事業主の法律事務所の場合、従業員を社会保険に加入させる義務がありません。そのため、法律事務所では、

  1. 協会けんぽ+厚生年金
  2. 市町村国保+国民年金
  3. 弁護士国保+国民年金
  4. 税理士国保+国民年金(弁護士が税理士登録している法律事務所の場合)

などのパターンがあり得ます。どのパターンであるかによって、自己負担額や保障内容等が変わってきますので、確認しておきましょう。

待遇面などの傾向は、法律事務職員に対するアンケート結果全法労協のアンケート調査などでつかむことができます。

(9)応募方法

自筆の履歴書(写真貼付)とパソコンで作成した職務経歴書を事務所に送付するのが一般的です。応募書類は、内容だけでなく体裁も審査項目に入っていると考えて、細心の注意を払って作成する必要があります。

選考結果がどのような形で通知されるのかも確認しておきましょう。サンプルのように、書類選考不採用の場合に結果を通知してこない事務所の場合、選考中なのか不採用になったのかわからず、やきもきすることになります。

まとめ

求人情報の見るべきポイントについて説明しましたが、今回のサンプルほど詳細でないものも多く、応募するかどうかの判断に迷うことも多いかと思います。ただ、求人件数が決して多いとは言えない業界ですので、ある程度の不透明さには目をつぶって応募するのもひとつの考え方だと思います。

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